940万円の人数カウンターを、M5StickCPlus2とPIRセンサーで代替する挑戦【続編】~デュアルセンサーで精度向上、ついにPYRO EVOを超えた?~

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940万円の人数カウンターを、M5StickCPlus2とPIRセンサーで代替する挑戦【続編】~デュアルセンサーで精度向上、ついにPYRO EVOを超えた?~

HC-SR501、ついに到着

前回の記事を公開した翌週、待ちに待った荷物がラボに届きました。

「やっと来ましたね、HC-SR501」

テスターの一人が段ボールを開けながら言いました。これまでの開発では、手元にあったSR602という小型のPIRセンサーを使って検証を進めてきました。SR602は消費電力が小さく、サイズも親指の先ほどとコンパクト。ただ、感度調整ができない固定式という特性があり、環境によっては検知範囲の微調整が難しいという課題がありました。

一方、今回届いたHC-SR501は、基板上に2つの調整つまみがついています。一つは感度(検知距離)、もう一つは検知後のHIGH信号を維持する時間。現場の環境に合わせて物理的に調整できるのは大きなメリットです。検知距離も最大約7メートルと、SR602の3〜4メートルより広い。

「さっそく付け替えて、テストしてみましょう」

新センサーでの検証開始

HC-SR501をM5StickCPlus2に接続し、ラボ内でテストを開始しました。SR602用に作り込んできたノイズフィルタのパラメーターを調整しながら、スタッフが部屋を出入りするたびにカウントが正しく上がるかを確認していきます。

「SR602より反応がいいですね。ちゃんと検知してます」

「でも、ちょっと待って。いま、ゴースト👻が通りませんでした?(誰も通ってないのに1カウント上がりませんでした?)」

画面を確認すると、確かにカウントが増えています。しばらく観察していると、数分に一度、ゴースト👻が通過してます。(誰もいないのにカウントが上がる現象が確認できました。)

「やっぱりノイズですかね」

HC-SR501は感度が高い分、環境からの影響も受けやすいようです。エアコンの気流、窓からの日射、あるいは電源からのノイズ。原因の特定は難しいものの、このままクライアント様にお渡しするわけにはいきません。

「両方が反応したときだけカウントすればいいのでは?」

午後のミーティングで、一人のスタッフがふとつぶやきました。

「センサーを2個つけて、両方が同時に反応したときだけカウントするようにしたら、誤検知は減るんじゃないですか?」

・・・・・・(一瞬、場が静まりました)

「それなw(もっと早く気づけばよかった)」

ノイズや環境要因による誤検知は、2つのセンサーが同時に反応する確率は極めて低いはずです。人が通過した場合は、両方のセンサーが反応する。でもノイズの場合は、片方だけが反応する可能性が高い。

「それ、いけるかもしれませんね」

さっそく検証を始めました。M5StickCPlus2には複数のGPIOピンがあるため、2台目のセンサーを接続すること自体は難しくありません。G26ピンに1台目、G33ピンに2台目を接続。両方のセンサーがほぼ同時に反応した場合のみカウントアップするロジックを組み込みました。

デュアルセンサーモードの効果

テスト結果は期待以上でした。

「当たり前と言えば当たり前ですが、30分間、誰も通ってないのでカウント0です。」(ゴーストを倒した瞬間ですw)

シングルセンサー(1台運用)では数分に一度発生していた誤検知が、デュアルセンサー(2台運用)では完全に抑え込めています。一方で、スタッフが実際に通過したときは、きちんとカウントされる。

「これ、良い感じに精度上がりましたね」

新たに「ミスマッチ」という概念が生まれました。片方のセンサーだけが反応し、もう片方が反応しなかったケース。これは誤検知としてカウントから除外されますが、統計情報として記録しておくことで、センサーの設置角度や環境の問題を後から分析できるようにしました。

センサーの数では、ついにPYRO EVOを超えた?

ここで、ふと思い出しました。前回の記事で紹介した940万円のPYRO EVO。

調べてみると、PYRO EVOは基本的に1台の筐体に1個の赤外線感熱センサーを搭載するシングルセンサー型のカウンターです。仕様上は2センサー構成に拡張することも可能とされていますが、標準構成は単一センサーで1m・4m・10m幅の検知を行う設計になっています。

「ということは、デュアルセンサーモードを搭載した時点で、センサーの数ではPYRO EVOを超えましたねw」

もちろん、冗談です。PYRO EVOには防水性能IP68、リチウム電池での約2年駆動、4G回線でのデータ自動転送など、私たちのシステムでは到底及ばない機能が山ほどあります。

ちなみに、PYRO EVOの「940万円」という価格についても補足しておきます。これは本体単体の価格ではなく、ハウジング、支柱、通信・クラウド利用料などを含めた一式パッケージとして国内代理店から提示されることがある参考価格です。本体のみであれば79.5万〜98.5万円程度、海外資料では約4,000ドルとされており、国内では輸入コストやサービス込みで積み上がっている構造のようです。いずれにしても、「試作レベルでまず試したい」というニーズに対しては、なかなか手が出しにくい価格帯であることに変わりはありません。

1台運用か2台運用か、選べるように

デュアルセンサーの効果が確認できたところで、次の課題が浮上しました。

「でも、設置場所によっては1台で十分なケースもありますよね」

確かに、すべての現場で2台のセンサーを設置する必要があるわけではありません。誤検知が少ない環境であれば、シングルセンサーで十分。コストも配線も半分で済みます。

そこで、シングルセンサーモードとデュアルセンサーモードを切り替えられるようにしました。設定を変更するだけで、1台運用にも2台運用にも対応できる柔軟な設計です。

デュアルモードでは、両センサーの検出タイミングに多少のずれがあっても許容する「時間窓」の設定や、片方だけが反応した「ミスマッチ」の記録機能も実装。現場での検証結果を後から分析できるようにしました。

クラウドへの記録も対応

デュアルセンサーモードの導入に合わせて、Googleスプレッドシートへの送信データも拡充しました。

カウント数だけでなく、使用しているセンサーの種類(SR602なのかHC-SR501なのか)、シングルモードかデュアルモードか、デュアルモードの場合はミスマッチの発生回数も記録されます。これにより、後から「この設置場所ではデュアルモードの効果がどれくらいあったか」を定量的に評価できるようになりました。

次のステップへ

デュアルセンサーモードの実装により、誤検知の問題は大幅に改善されました。HC-SR501の高感度を活かしつつ、2台のセンサーによる相互確認で信頼性を確保する。この組み合わせは、私たちの「田舎テック」らしい解決策だと感じています。

現在は、いくつかの環境でフィールドテストを継続しています。屋外での長期運用に向けた防水ケースの選定や、ソーラー給電との組み合わせなど、実運用を見据えた検証はまだ続きます。

前回の記事でも触れましたが、最終的にはパナソニック製の高精度PIRセンサー「EKMB1107113」への移行も視野に入れています。調達性の課題がクリアでき次第、さらなる精度向上を目指す予定です。


おわりに

「940万円のシステムには及ばなくても、現場で使えるものを」

この思いで始まったプロジェクトは、一歩一歩、着実に前進しています。

誤検知という課題に直面したとき、「センサーを2台つければいいのでは」というシンプルな発想が解決の糸口になりました。高価な部品や複雑な仕組みではなく、手元にあるものを組み合わせて工夫する。これこそが、私たちが大切にしている「田舎テック」の精神です。

センサーの数ではPYRO EVOを超えた――これは半分冗談ですが、半分は本気でもあります。予算や環境の制約がある中で、できることを最大限に追求する。その姿勢があれば、大企業の高価なシステムに負けない価値を生み出せると信じています。

次回は、実際の屋外設置に向けた防水対策や、長期運用での知見についてお伝えできればと思います。

「こんな場所でも使えるか試してほしい」「うちの施設でも導入を検討したい」

そんなお声がありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。一緒に、ちょうどいい解決策を考えましょう。

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